インタビュー

2020.11.03

第10回 日本ミニチュアフード協会会員インタビュー【くじら亭さん】 | 日本ミニチュアフード協会

日本ミニチュアフード協会会員さんへインタビュー 第十回樹脂や粘土などでできたミニチュアフード。

その作り方を学べる日本ミニチュアフード協会(以下協会)の会員さんは、個性豊かで日常を楽しまれている方がたくさん。アーティストとして自分の作品を販売したり、企業とのコラボ商品を作ったり、講師をされている人もいらっしゃいます。このインタビューでは、そんな会員さんたちの魅力を深堀り!

作り始めたきっかけや今後の展望を教えていただきます。第十回となる本編は、初の男性会員さんにインタビュー!2018年4月から認定レッスンに通い、その後会員に登録。今年8月にオープンした公式グッズ販売ページ「ミニチュアフードコレクション(通称ミニコレ)」では、ライターとしても活躍されています。高度なテクニックを細かく解説した記事の数々に、会員さんからは「講師になってほしい!」「授業を受けてみたい」と、リクエストも多数寄せられています。男性で、細かい作業が得意で、しかも解説が上手。さらに「くじら亭」というアーティスト名も気になりますよね。緊張とワクワク感を抱きつつ、Zoomを使いインタビューさせていただきました。

Q. どんな方かと思い、ドキドキしていましたが、温かい笑顔を拝見して一気に緊張が解けました。まずはくじら亭さんがどんな方なのか伺ってもよろしいでしょうか?
くじら亭
くじら亭

初めまして。私はIT系の企業に務める会社員で、仕事内容は組織全体の品質管理やプロジェクト統括などです。くじら亭という名前に深い意味はなく、学生時代に友人がスキー場で付けたあだ名から取ったもの。当時の私はがたいが大きく、真っ黒なウエアで白いゲレンデを滑り降りる様子がクジラのようだったそうです。それから40年。60歳になります。

20代の時のスキーに行った時の写真です。真っ黒なウェアで結構体格が良いので、「くじらみたい」と言われていました。

Q. 昔からのニックネームだったのですね。そして60歳とは思えない若々しさです。くじら亭さんのような方が上司だと仕事を楽しく進められそう…。それにしても、大きなクジラさんが小さなミニチュアフードを始めたきっかけは何だったのですか?
くじら亭
くじら亭

ミニチュアフード作りは、プラモデル制作の延長で2018年に始めました。プラモデル歴は非常に長く、小学校高学年まで遡ります。
というのも、幼いころは体が弱くインドア派で、細かい作業が好きな子どもでした。小学校低学年まではダイヤブロック(レゴと似たタイプのブロックのおもちゃ)にはまっていたのですが、高学年でプラモデルと出合い、戦時中の資料などを参考にしながら戦車や車を作り、のめり込んでいきました。
Q. なるほど! プラモデル制作のキャリアが、2018年に始めたばかりとは思えない腕前の理由だったのですね
くじら亭
くじら亭

ただ、プラモデルもずっと作り続けていた訳ではなく、大学生活で他の楽しみに没頭する中で遠退いていました。
再度作り始めたのは40歳のころ。仕事でストレスが溜まった時、「子どもの頃に好きだったことを始めると発散できる」という話を聞き、時間を作って少しずつ作るようになりました。子どもの頃は高価で手が届かなかった道具が使えたり、組み立てるだけではなく塗装などにも挑戦したりと、日に日に楽しくなり、50歳になった頃、本格的に復帰しました

自宅の作業室兼仕事場です。平日は在宅勤務、土日はプラモデルやミニチュアフードの作業場になります。


プラモデル作品の一つ。道路工事のジオラマです。


プラモデル作品の一つ。第2次世界大戦の対戦車砲のジオラマです。

Q. このプラモデル制作がミニチュアフード作りに発展するのですね
くじら亭
くじら亭

プラモデルは、基本的に作られたパーツを組み立てます。キッチンカーのセットを制作した時、パン好きの私としては付属のパンにどうしても納得がいかず「美味しそうに再現できないか」とネットで検索。ミニチュアフードの存在を知りました。そして、本を購入したり、ネットの記事を参考にしたりして、自己流で作りはじめたんです。面白くなって色々な作品や作り方を検索していた時に、インスタグラム上で野津さんの存在を知り、ミニチュアフード協会に辿り着き、大阪で認定レッスンの教室に通うことにしました。
Q. プラモデルで鍛えた腕があるのに、教室に通われた理由は?
くじら亭
くじら亭

理由は二つ。一つ目は「野津さんに会ってみたい」と思ったことです。というのも、ミニチュアフードというコアな分野で、たった1人で協会を立ち上げ、運営しようと思う心意気が凄い!「この人面白そう。直にお話ししてみたい」と感じました。
二つ目は、「業界の空気感や雰囲気に興味をそそられた」ことです。私はIT業界に長らくいますが、様々な業界の雰囲気に関心があり、ネットでは感じられない現場の雰囲気みたいなものに触れてみたいと思いました。
Q. 実際に1年間教室に通われた感想はいかがですか?
くじら亭
くじら亭

野津さんの第一印象は「なんて小柄な方なんだ!」でした(笑)。そして作るコツについて伺った際に、「ミニチュアフードは可愛ければ、何でもOKなんです!」と言われたことがとても印象に残っています。プラモデルはサイズやスケール感を重視し、形が決まっているのですが、ミニチュアフードは粘土で一から作るため、自由に作れます。目から鱗が落ち、ここが一番の面白味だと感じました。
Q. 協会の印象はいかがでしたか?
くじら亭
くじら亭

協会のメンバーは、代表を筆頭に優しい雰囲気に包まれ、一緒にいて落ち着く人が多いです。人に気を使わせない温かいオーラもありますね。これまで、他の団体で理事を経験するなど、さまざまな業界の空気感を体感してきましたが、ここの空気感はとても気に入っています。2014年に発足したばかりの新しい団体ですし、国内で唯一のグループです。今後どのように進化するのか楽しみですね。私にとっては、ストレスの緩和と自分を知ってもらえる大切な場所になっています。

認定コースで作った松花堂弁当

Q.圧倒的に女性が多い業界で、男性は珍しいですよね?
くじら亭
くじら亭

「可愛い」というイメージが先行して参加しにくいのかな? 私を含め、こういった細かい作業が好きな男性は多いはず。「家庭平和」のためにも是非多くの男性にチャレンジしてほしいものです。
Q.家庭平和(笑)! ご家族の方には喜ばれますか?
くじら亭
くじら亭

プラモデルをやっていた時とは反応が全然違い、かなり好評です。完成した作品を家族に見せると会話が弾みますし、団らんの時間も増えました。
休日である土日のいずれかに、5時間程度制作していますが、プラモデルで戦車や車を作っていた時は「自分の殻にこもっている」など批判的な声が多かったのですが、ミニチュアフードの場合「ゴッドハンドだね! 外科医になればよかったのに」などと楽しそうに見てくれます。私としては、「やっと才能に気付いてもらえたか」という感じです(笑)。きっと、誰もが身近な「食」がテーマであること、そして可愛さが、共感を呼ぶのでしょうね。

キッチンカーのジオラマです。ミニチュアフードの世界に入ったきっかけ。

Q. 確かに! しかもくじら亭さんがよく作られるパンやケーキは女性が大好きなグルメですしね。そんな食をテーマにしたものづくりですが、大切にしていることや心掛けていることはありますか?
くじら亭
くじら亭

ミニチュアフードの良さは「こう作らなくてはいけない」というルールがないところです。なので正確に作ることが正解という訳ではありません。ちょっとねじれていたり、ゆがんでいた方が味があり、結果的に良い作品に仕上がることがよくあります。ですので、「本物に嘘をつかない」「いい加減に作らない」をモットーに、職人になりきって作ることを心掛けています。

西宮に有るカーベカイザーのバウムクーヘン。このきめ細やかな層が技のすごさを語ります。本当に、おいしそうでしょ。

Q. 職人になりきる?! 斬新ですね。なんだか楽しそうです。
くじら亭
くじら亭

例えばフランスパンを作る際には、パン職人向けの本を参考にしながら表面の切り目の角度を研究したり、バームクーヘンを作る際には、生地がしっとりと焼き上がるコツや重ね方を学んだり…といったことです。粘土で食べ物を作っていると「何でこうなるのか?」と、知的好奇心が湧き、材料や手順、上手に作るコツを知りたくなって本を購入し、研究したりしています。家族からは「そんなに研究するなら食べられる本物も作って」と言われちゃうのですが、そこは妻に任せてます(笑)

本物の作り方や育て方を研究するために買った本です。

Q. 研究した結果や技法をブログで紹介されていますね。かなり詳しく丁寧に書かれていて感激しました。
くじら亭
くじら亭

自分の研究が、皆さんに喜んでもらえることはとても嬉しいです。これからも、プラモデル作りで培った技術も活かしながら情報発信するので、参考にしてもらえたらと思います。また、インスタグラムでは毎週1記事を目標に画像をアップしているので、よければ見てみてくださいね
Q.最後に今後の目標などがあれば教えてください。
くじら亭
くじら亭

特に目標などは定めていないのですが、楽しみながら続けられたらと思っています。あ、そう言えば、私はバームクーヘンやシュトーレンをはじめ、小麦製品が好物なので、どうしても作品がそちらに寄りがちなんです。しかし、次回は和食にチャレンジしてみようと考えています。実は本も購入済みなんです。炊き込みご飯や寿司などを美味しそうに作れたら…と思っています。でも、巻寿司を作るなら、まずは簀の子から制作しなきゃいけないですよね。こんなことを言っていると、また妻に「だったら本物を作って」と笑われそうです(笑)。
「ミニコレ」で連載中のブログを読むと、作品の作り方はもちろんのこと、カッターや絵具など様々な道具を詳しく比較分析して記されていたり、自作の道具を披露されていたりと、まるで研究者のようなくじら亭さん。実際にお話しすると、人の心を解きほぐす、温かい人柄が印象的で、ご自身が抱かれた「協会の雰囲気」そのもののような方でした。
また、ご自身のインスタグラムでは美味しそうなバームクーヘンやシュトーレン、パン類の作品がずらり(たまに本物も登場します)。インタビュー中には、特にお気に入りというドイツ菓子店「カーベカイザー」(神戸)の「バウムクーヘン」について熱く語る一面もあり、インタビュー終了後に思わず検索してしまいました(笑)
とことんこだわる職人魂と食べ物に対する愛情が、素晴らしい作品作りに一役かっているようです。今後も精巧な作品の誕生を楽しみにしています。
くじら亭さんプロフィール
日本ミニチュアフード協会会員

大阪生まれ、大阪育ち、現在大阪在住。
小学生の頃から趣味だったプラモデル制作がきっかけとなり、2018年からミニチュアフード作りをスタート

「ミニコレ」でライターとしても活躍中
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作品や近況は下記のインスタグラムアカウントでご覧いただけます
インタビュー /末永朋子
広島を拠点に全国各地を取材し、執筆やイラスト制作を行う。モットーは、受け取った人の未来が、現在より愛に満ち、豊かになる情報発信。

※インタビューの内容の中に、現在の協会のシステムと異なる部分もありますが、
会員さんのお話の内容当時のものです。ご了承くださいませ。